Interview

Vol.011

鍛えるほどに良くなるセンサー
それはかなり、筋トレに似ている

SMS事業部 開発部

松本 拓也

Takuya Matsumoto

鍛えるほどに良くなるセンサー
それはかなり、筋トレに似ている

SMS事業部 開発部 松本 拓也

スマートモビリティソリューション事業(以下SMS事業)を支える車両検知センサーの開発には、幾年先にも渡ってロードマップが存在しています。第一世代のセンサーが世界中で稼働する中、第二世代のセンサーを世に送り出した2023年。そして今後も、第三、第四世代の開発に意欲的に取り組んでいく方針です。

しかしオプテックスの本社では「第一世代」の強化が今も同時に行われていました。『古い』センサーを最新に保ち、第二世代にさえ迫る性能を目指して練磨し続ける。なぜか。センサーも己自身も鍛え続けるソフトエンジニア、松本さんにその意義とやりがいを聞きました。

Okai

Okai

松本さんは私と同じ転職組ですね。関東にもいらっしゃったそうですが出身地はどちらなのですか?

Matsumoto

Matsumoto

大阪です。小中高と地元の学校に通っていて、高校の時は学年で常に10番目くらい入る成績を修めていて、自分で言うのもなんですが割と優秀でした。ずっと大阪にいるんだろうと思っていたのですが、その時の担任の先生から「お前は大阪から出ていけ!」と言われてしまったんです。

Okai

Okai

それはびっくりしますね。真意はどこにあったんですか?

Matsumoto

Matsumoto

分かりません。分からないんですが、今思うとそんなにレベルの高くない集団の中で優秀、つまり井の中の蛙状態だった僕に、もっと外でチャレンジして来い!って意味だったのかなと思っています。結果的にはその言葉通り、大阪を離れて岡山の国立大学に進むことに決めましたし、良い選択だったと思います。
学生時代は単身学生らしい、酒に麻雀にと岡山生活を謳歌していましたが笑

学生時代は軽音部に所属し、そこで奥様に出会う。オプテックス内で行われたアートイベントでも歌声を披露した。

Okai

Okai

すみません、できれば学問のお話も少し……。

Matsumoto

Matsumoto

情報工学科でプログラムや通信関係を中心に。研究室では車載カメラ(車やバス等で使用されるカメラ)の障害物検知の研究を重ねました。その研究室の教授がなぜか僕を気に入ってくれまして。就職先を推薦してくれることになり、日系の大手二社から選ぶことができました。

Okai

Okai

なんだか行く先を示してくれる、素敵な師匠との出会いが続きますね。

Matsumoto

Matsumoto

多分僕って巡り合わせがいいんですよ。最終的に選んだ企業に内定をいただける可能性は3割くらいだと言われていましたが、結果的に採用いただけましたし。

Okai

Okai

日系の超大手企業に就職が決まりましたが、配属先は関西ではなく岐阜県でした。

Matsumoto

Matsumoto

はい。就職してからは通信系の事業部に配属になりました。今の若い人は分からないかもしれませんが、PHS(ピーエイチエス / ピッチ)の通信基地局のソフトウェア開発担当として。当時は珍しくとも何ともなかったと思いますが、毎日22時にまで働いて月の残業時間が80時間とかだったかな。もちろんみんなも同じように働いていましたし、やりがいもあったので普通だと思っていました。

で、当時はタバコを吸っていたのですが、ある日事業所長とタバコ部屋(※今では少なくなった喫煙所の俗称。オフィス内や現場でできない相談がなぜかできる。)で二人になったんです。そこで所長が言うんですよ。「お前な、この事業所閉鎖になるよ。そして神奈川に異動になる。結婚するなら早くしたほうがいいぞ」って。

所長から僕への気遣いでした。

結婚してから異動するのと、単身では会社からの補助が全然違うんです。大学で出会っていた彼女とは、中国地方との遠距離恋愛中。結婚はもう少し先かなと考えていましたが、事業所長の言葉がきっかけになって一気に手続きを進めました。

Okai

Okai

三人目のマスター登場に胸が熱くなります。本当に人に恵まれますね。

Matsumoto

Matsumoto

ただ妻の職場がどうしても中国地方から静岡県への転勤でしか調整が効かなくて。神奈川に居を構えたのですが、妻は毎日6時発の新幹線出勤で一本でも遅れると遅刻(!)。定期代の補助はありましたが、持ち出しが月13万円(!!)。でも一緒の家庭で頑張ってくれていました。私は変わらず毎日22時まで仕事。そんな生活が3年ほど続きました。

さすがに負担を感じるようになってきていましたが、お互いお酒が好きなこともあって、週末は金・土と居酒屋で飲み歩いていましたね。これはとても良いストレス発散になりました。

Okai

Okai

素敵な週末です。けれど健康がちょっと気になります。

Matsumoto

Matsumoto

まさに。ちょっと飲みすぎだなと思って、市民センターにある300円で利用できるような安いジムに通うようになりました。高校まで本気で水泳をやっていたので(大阪府新人戦8位)、身体を鍛えるのには抵抗はありませんでしたね。

しばらくして今度は同じ県内なのですが、結構離れた事業所に異動になりました。そこで通常の業務に加えて、海外での研究論文発表を任されまして。一番多忙な日々でした。

Okai

Okai

どのような研究をされていたんですか?

Matsumoto

Matsumoto

ヘッドアップディスプレイに違和感なく映像を投影するための技術。例えば車のフロントガラスに車の情報やナビを表示するような製品に活用できるものです。

ロサンゼルスで論文を発表したあと、製品化の目途も立ってきたあたりで、その技術を開発者に引き継ぐためディスプレイ系の生産を担う滋賀県の事業所への出張が激増しました。多いときで週3回。それでも高度技術の引継ぎってやっぱり難しくて。「これはまた、異動になっちゃうんじゃないかな」と、なんとなく嫌な予感がしていたんですね。

Okai

Okai

転勤が多いことは松本さんにとって良くなかった。

Matsumoto

Matsumoto

はい、その通りです。長女も大きくなってきていましたし。転勤って人間関係も含めて生活の根幹を覆すような側面がありますよね。単身で異動するという選択肢ももちろんありましたが、岐阜県に家族や生活基盤を残して、神奈川に出てきた同僚たちを見ていたのも大きかったと思います。週末になると長距離移動して「自宅」まで家族に会いに行く。僕にはその選択ができなかった。

実際に滋賀への辞令が出たときには、2人目を授かっていました。結果的に家族で引っ越すべきだという判断を妻と相談して決めたのですが、娘に泣かれたんですよ。「どうして勝手にきめちゃったの!!」って。娘にも友達がたくさんできていたので……。その時の選択はいまも正しかったかは分かりません。こういったこともあって、これからは地に足の着いた場所で働きたいと、改めて強く思ったのを覚えています。

Okai

Okai

それで滋賀にあるオプテックスを候補に加えられた。

Matsumoto

Matsumoto

オプテックスは事業所数も多くなかったし、開発拠点は本社がベースです。頻繁な転勤もないだろうと思って受けたのが正直なところです。でもセンサーという自分にとって未知な領域に挑戦できるワクワク感もありました。

Okai

Okai

そんな慌ただしい中でも筋トレは途切れず続けられたんですね。

Matsumoto

Matsumoto

むしろ徐々にエスカレートしていきました。市民用のジムから、自宅にダンベルを置くようになり、バーベルとラックが追加になり、足りない重量を補うために本格的なジムへも通うようになりました。ちょうどコロナ禍が明けたことも追い風になりました。

しっかりやりたいなと思ったきっかけはボディビルダーのジュラシック木澤さん。「なんか!すごいぞ!これは!」ってなりました笑

Matsumoto

Matsumoto

今の時代にそぐわないことを承知で、かつ誤解を恐れずに言うと「男に生まれたからには強くありたい」という想いがずっとありました。僕たちの世代ってドラゴンボールや、北斗の拳というマッチョな主人公にかなり感化されているんじゃないかな。弱きを助け、悪しきをくじく。そんなヒーロー像。だから漠然と強く、大きくなりたかった。

でもだらだら自己流でやってても伸びないんですよ。もっとデカくするには?と調べるとフォームや食事など、基礎から勉強する必要がありました。努力も「正しく」しないと筋肉は大きくなってくれない。

Okai

Okai

松本さんにとって筋トレっていったいなんなんですか?

Matsumoto

Matsumoto

筋トレとは。……自分を律するためのツールですかね。

Matsumoto

Matsumoto

つまりは自分との約束なんです。火曜日にベンチプレスをするぞ。デッドリフトは水曜日だ。自分との約束を繰り返していく。それって結構面倒くさいことですよね。

特にスクワットといった種目は重量があがると恐怖心も出てきます。グラグラで安定しません。「ボトムで上がらなくなったらどうしよう。」なんて心配も脳裏をよぎります。

だから筋トレは僕にとって自分の怠ける心を律する。恐怖心を乗り越える。そして闘争心を保つ。そんなことを成すためのツールなんです。何にもしていないと人間ってだらけてしまうから。

例えば今年の12月までにベンチプレスで110キロ挙げるって決めたら、せめて何か月目までに95kg×5rep×5setはクリアしないといけない。そうやってプログラムを組んで、地道に積み重ねていくのが好きなんでしょうね。

Okai

Okai

なるほど、仕事にも通じる部分がありそうですね。

Matsumoto

Matsumoto

開発の仕事と一緒です。目標を見据えて計画を立て、地道で正しい努力と作業を積み重ねることで集大成にたどり着く。

開発の基礎的なデータを取るのは、例えるならばフォームの構築です。理論を学んで実施するのは、日々のトレーニングや栄養摂取。結果を評価するのは、挙上重量や身体の観察でしょう。そして、うまく行かなかったらスパイラル的に戻ってやり直す。全部一緒です。

Okai

Okai

筋肉もセンサー開発も、いきなり過負荷をかけると破綻する。

Matsumoto

Matsumoto

そうそう。いきなり100㎏やっても挙がらない。でも毎日積み重ねれば今、到底挙がらないものも挙がるようになる。これは理論も大事だし、自分で実践することも同じくらい大切。頭でっかちではなく、試した結果を感じて、そして判断していくことが重要です。

Okai

Okai

自分を律するためのツールという言葉印象に残りました。
創業者の小林さんも、理念の一つ「ゆとりをもて」の背景にある「自律の重要性」を説かれていました。

Matsumoto

Matsumoto

前職の頃って良いところももちろんあったけど、今と比べたら拘束が厳しかったんですね。会社行事は全員参加が前提だったし、体調不良以外の理由では有休も使いづらかった。でもしっかりと管理されている分、自分を律する必要はなかったかもしれない。

オプテックスはフレックスタイムを使えるから、子供を病院で診てもらったり、急病の子供の迎え行ったりできる。参観日だってもちろん。こういう環境は家族として生活できている実感があって本当に良かった。

お蔭様でオプテックスでは、自分で裁量をもって仕事を進めることができています。その一方で自分を律する必要があるんです。そして僕にとっては筋トレがその役割。

Okai

Okai

そんな新しい環境で取り組んだOVS-02GTという車両検知センサーは、社長賞を受賞しました。

Matsumoto

Matsumoto

2019年の入社から取組みが始まりました。FMCWレーダーモジュールを使ったセンサー開発でしたが、レーダーは全くやったことがなかったのでまず理論の理解、筋トレでいうところのフォームの構築から始めました。OVS-02GTではアルゴリズム検討も行いましたが、一緒に開発をした西川さんが熱く語ってくれているので、私は「組み込みソフトウェア」について話します。

アルゴリズムを担当した西川さんの記事はこちら>

組み込みソフトは、例えば「電波を出せ」「受信した信号を読み取れ」「信号を処理します」「検討したアルゴリズムを使って車両を判定します」。といったFMCWの一連動作を全部担っています。

一番の面白い部分は、いかにして「マイコン(センサーを動かす小型コンピュータ)」にこのソフトを載せるかというところ。アルゴリズム開発はPCでできるので、例えば数十GBのメモリを積んでいるパソコンを使って、好き勝手にアルゴリズムを組めるんです。

Matsumoto

Matsumoto

でも組み込みソフトは、そうはいかない。この時問題になるのがマイコンのメモリ容量。PCと違って本センサーのマイコン容量ってせいぜい256kB。キロバイトです。これでも組み込み界では多いほうです。

このメモリの使い方がとても重要でデータを記憶するバッファを確保すると、その分だけでメモリが逼迫して、自由に使えるメモリ量が少なくなります。また、リアルタイムな処理が求められるので、処理時間の制限も多く、PC上で検討したアルゴリズムがそのまま組み込めるかというとそうではない。

これを踏まえてソフトウェアが実行できるか否か、というのが僕の腕の見せ所というわけです!

Okai

Okai

OVS-02GTは好評とお聞きしていますし、新しい機種の開発も期待しています!
ところで、その一方で既存モデルの強化も同時に実施されているとお聞きました。

Matsumoto

Matsumoto

2016年から発売している「OVS-01」ですね。こちらも世界中で何万台も売れているセンサーですが、人キャンセル性能(車両だけを検知して、人間が通過しても検知しない性能)をもっと高めたいという要求がありました。

先ほどマイコンの性能のお話をしましたが、OVS-02GTと比べて、当然古いマイコンを使用しています。その中で理想を言えばOVS-02GT同等、とまではいかないまでも、なるべく性能を高めることを命題として取り組みました。

つまりはすべてのパーツはそのままで、ほとんどソフトの処理だけで製品を良くする。ということです。

Okai

Okai

発売済みの製品も鍛え続けるんですね。

Matsumoto

Matsumoto

はい。お客様の要望にできるだけ答え続けるスタイルです。ここにはOVS-02GTで得た知見がとても役立ちました。メモリ量や処理能力がものすごく制限されていましたが、処理の対象とする範囲をフォーカスしたことをはじめ、様々な実験を繰り返して性能を強化していきました。

筋トレでいうと少ない器具でも種目を工夫して、目的の筋肉を上手に大きくしていった感じです。

「OVS-02GTは第三子ですね」と、松本さん

Matsumoto

Matsumoto

現在はお取引先様に評価いただいている状況です。なかなかすぐに結果はでないので、数か月運用して必要あればカイゼンを繰り返します。ただ本音でいうとできれば一発で終わらせたいですね。お客様のためにも、担当営業のためにも。

他にもオプテックスのセンサーは、車両検知センサーに限らず現場の特異な状況に合わせて設定する必要が出る場合があります。難しい案件では、営業の方たちに現場でデータを取って来ていただいて、それを解析して設定へのアドバイスを行うこともあります。このように営業も開発も連携して、満足いただける現場を増やすために日々努力を重ねています。

あ、連携と言えば他のメンバーもそうですが、既存のモデル強化で電気設計担当の三原さんには、かなり協力してもらいました!様々な屋外環境の信号データを取得して、「この定数だと信号が飽和して車両検知の邪魔になるから、定数調整をお願いします!」なんて言って。

またOVS-02では、開発完了の目途がある程度立ったころ、ある環境下でしか発生しない問題が発覚しました。一緒に開発していたR&Dチームは別のプロジェクトに移行していましたので、自分一人で解決しなければなりません。そんな時、一緒になって考えてくださったのが上司の水田さんで、二人で遅くまで残ってなんとか課題を解決しました。この時の支えが無ければOVS-02は発売できていなかったと思います。

左から水田さん、松本さん、三原さん

Matsumoto

Matsumoto

SMSのメンバーは営業・開発関係なく、やりたいことを相談すると、頭ごなしに否定せずにちゃんと考えてくれるので助かっています。とても良い距離感ですね。

Okai

Okai

最後にエンジニアとして、松本さんとして、「絶対に譲れない」ポイントはありますか。

あらゆる作業を厭わずに、地道に一つずつ積み重ねる。 基礎実験をして、データ解析をして……。一見地味に見えますが、雨の日も風の日も雪が降っても積み重ねることで、大きな成果となる。このようにしてオプテックスという会社で活躍し、世の中のお困りごとを解決して、社会をより良くしていきたいです。


しかし、何よりも私が仕事に取り組めているのは家族の協力があってのこと。
家族を幸せにすることが私の人生の目標なんです。

取材中別部門の社員からの情報が入りました。上司の水田さんが会合の席で話した内容です。「松本さんは課題を解決しようとするとき、ずっと寄り添って最後まで残ってやってくれる」まるでこだまのような一言からSMS事業部の真摯な空気感が伝わります。

さて、松本さんは公私に関わらず、地道な努力と挑戦の積み重ねが大きな成果につながることを教えてくれました。そして同僚や家族への深い想いが彼を彼たらしめているのだと強く感じました。松本さんの心(と筋肉)に触れた皆様の気持ちも相応にパンプアップしていれば嬉しい限りです。


企画・編集:岡井良文

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※本記事は2025年12月の取材内容で構成しています。