

Interview
Vol.001
新技術を次々生み出すエンジニア
その思考法に触れる
岩澤 正仁
Masashi Iwasawa
BIOGRAPHY
- 1964年 0歳
- 誕生
- 幼少期
- 東京都板橋区の下町で育つ。昔ながらの駄菓子屋や都電が原風景
- 1976年 12歳
- 親の仕事で、奈良へ。その後滋賀県に移る
- 1977年 13歳
- 運動嫌いのため、科学部を有志で復活
- 1982年 18歳
- 普通科の高校へ。ハードロックバンドとして滋賀県代表になる
- 1983年 19歳
- 大阪電気通信大学に進学 フュージョン系の音楽に目覚める
- 1987年 23歳
- オプテックス入社。一年目にして特許技術を開発
- 2008年 44歳
- 次世代型の主力セキュリティセンサーREDSCANを開発
のちに近畿地方発明表彰 近畿経済産業局長賞を受賞
- 2021年 57歳
- 弓道を始め段位も取得。今後国体を目指す
- 2023年 59歳
- ジャズフェスで大トリを務める
新技術を次々生み出す開発者
その思考法に触れる
戦略本部 開発センター R&D部 岩澤 正仁
編集担当の岡井です。恐れ多くて話しかけられない雰囲気をまとった技術者の方、御社にもいらっしゃいませんか?特許技術を次々と開発する岩澤さんもまさにそういう人なのですが、あえて遠慮なく聞いてみたら爽やかに応じてくれました。
岩澤さんはオプテックスの防犯用パッシブセンサー数千万台で使われている基礎技術の開発、アクティブセンサーの双方向通信手法の確立、さらにはLiDARを用いたREDSCANの開発をリードするなど、現在の主力製品の根幹を築いた生粋のエンジニア。
これからエンジニアを目指す人、開発者として壁を越えたい人、そんな方々の参考になれば幸いです。目より心で読むのがおススメです。


Okai
今日はよろしくお願いします。
岩澤さんは中学時代、「科学部の復活」を成されていますが、
理系への興味がそれほどまでに強かったのですか。

Iwasawa
当時仲のいいメンバーが何人かいて、面白いことしようって盛り上がったんですよ。軽音楽が好きな連中が多かったのですが、中学生にとって楽器って高いでしょ。それで校長先生にギター買いたいんだ!って言って特別に許可を貰って、夕刊の新聞配達をはじめました。
お金をコツコツ貯めてベースとアンプを買ったんですけど、僕の中学校では軽音部が認められなかった。
そこで当時、活動実態が全くなかった科学部を復活させたわけです。

Okai
音楽がやりたくて、科学部を復活。繋がりが分かりません。

Iwasawa
天文学とかもやるにはやってましたが、主目的としては仲のいい連中と集まれる場所を作っただけという笑
で、エレキギターを続けていると今度はだんだんエフェクターが欲しくなってくるんです。今は大分安くなりましたけど、当時はとてもじゃないけど手が届かなかった。ところが意外にも回路図は手に入るんです。京都に出れば僕にも買える値段で部品も売っている。
じゃあ作ってしまおう!と考えた。もちろん理解しないで作れるわけがないですよ。でもどうしても欲しい。でも分からない。そうなると指南書を買い漁ってまで調べまくるんです。
それから回路図に落として、実態配線図を書いて。
実製作には半田やテスター、測定器とかが必要になるんですが、これは「科学部」で借りられるので。

Okai
見事に繋がりました。

Iwasawa
作業としては今やっている開発と大して変わらないですね笑 つまりこれがエンジニアとしてのはじまりということです。高校生になってバイトの単価があがってくると、エフェクターも買えるようになりました。でもね、結局作ってましたね。

Okai
高校でも軽音にのめりこみ滋賀県代表に。大学では通信工学を学ばれつつ京都大学軽音部にも所属。
その後学校の先輩の誘いもあり、大手電機メーカーの採用を蹴ってオプテックスを選ばれました。

Iwasawa
風通しの良い社風が決め手になったのですが、仕事としては漠然と開発をするんだろうな。くらいに思っていました。実は当時オプテックスのCMがテレビで流れてたんですよ。CMでは家庭用のチャイムみたいな分かりやすい製品が紹介されていて。それを見て、オプテックスはセンサーというカテゴリーの中で、人を検知して生活感を変える会社なんだなということは理解していました。
入社後はこういう家庭用品をやるのかなと思っていましたけど、全然違ってBtoBのセキュリティセンサー担当でした。

Okai
入社直後から大活躍されたと聞いています。

Iwasawa
入社後、はじめて特許を取得できたのが 『ダブルコンダクティブフィルタ』という技術なんですが、当時、車のライトが当たるとパッシブのセキュリティセンサーが誤報してしまうという課題がありました。うちのセンサーは感度が良かったから。
そこで上司から「なんか考えて」って言われてました。これが僕にとってすごく良かった!具体的な指示がないので、ほんとに試行錯誤しましたよ。素子にフィルター重ねたり、素子を砕いてフィルターを変えてみたり。
でもなんかだめだな~って諦めてた時に、ふと素子とフィルターの距離を遠く離してみたんです。そしたらなんかうまくいった。けどなんでだ?ってなって仮説を考えました。おそらくレンズを通して集光する時に、車のライトの強い光が集まって熱を持ってしまい、それを検知してしまっているという説に辿り着きました。
より効果的に解決するためにフィルターの位置を変えて二枚付けることにしたのですが、これが最初の特許です。今もオプテックスのセキュリティ用パッシブセンサー全てに採用されているんです。

Okai
その後も新技術を次々開発されていくわけですが、開発者として成長されたきっかけはどこにあったのでしょう。

Iwasawa
最初の一年、好きなことをやらせて貰えた時に発想法を見つけたんです。当時「とにかく自由にやれ」と任せてくれた上司の杉本さんに感謝です。今思えば僕を見るのが面倒くさかっただけかもしれないけど笑
でも、これって指示待ちだと絶対に到達できない発想なんです。訳が分からない中でも、とにかくやり切る中で発見がある。そのあとは上の人がフォローしてくれるし、咎めず、助けてもくれますから。そんな雰囲気の中で伸び伸びやってました。

Okai
「指示待ちだと絶対に到達できない発想」について、もう少し詳しく教えてください。

Iwasawa
なんだろう、直接的な表現ではないんだけど、大事にしているのは小林さん(創業者:小林 徹)が良く言う「世の中の不平不満をなくす方向にするとうまくいく」ってこと。人がやりたがらないことをやるってことですね。
新しいことをやろうとすれば、一般的には「それってどうなの?」っていう反応になることがあるんですよ。でもそこで止まるんじゃなくて、何が不満なのか、何が不安なのかを突き止めて、無くす方向で考え尽くすんです。

Okai
不満や不安を無くす方向で……。分かるようで、まだ少し掴みかねています。

Iwasawa
つまりはエフェクターづくりなんです。経済に困って、本当はやりたくないんだけど、やむにやまれぬのでやる。コストを計算して、トータルで価値があるなら負荷をかけてでもやるってことです。やり切った暁には、僕の「エフェクターが無い」という不満がすっかりなくなっていた。

岩澤さんの自宅には魔改造されたエフェクターセットや過去の賞状、ギターが所狭しと並べられていた。19年連れ添っているという「チビちゃん」にもご挨拶。

Okai
では不満を取り除くために、岩澤さんが最初に行うことを教えてください。

Iwasawa
とにかく情報をかき集めます。
例えば、ある無線機器の開発で法律の壁にぶち当たったことがありました。その時は六法全書とか法律関連書をですね、引っ張り出してきて。うんうん言いながら読んでいる中で「あれ?これって解釈によってはいけるんじゃないか?」となって。実際に東京の総務省に訪問して、要求を説明してみたら大丈夫だったことがあります。ちなみに最終的には、要求内容に沿って法律の記載内容が変更されました。
そうやって何とか許せるコストに収めつつ、「この課題なんとかして欲しい」って困っている人の不満を無くす時に僕はすごく力が出ます。
これに限らずどこから情報を集めるかについては、ものすごく意識していました。いまはなんでもインターネットになりましたけどね。

Okai
では技術のトレンドをつかんだり、深化させたりする作業は、今は一人でやれるものでしょうか。

Iwasawa
無理無理!絶対無理!
会社の中にだけいると考えが偏っちゃうから、色んな人の考え方を聞く方が絶対良いですよ。僕も社外的なつながりを頭の中で整理していて、この件だったらこの人に、あの件だったらあの人に。と頼っています。逆に頼られることもありますし。
今ってリモートもできるので便利な一方、深くはつながれてないんじゃないかな。ミーティングも時間になったら「はいおしまい」なので時間的に恵まれている分、少し不幸なこともあるのかなって。深く話して、いろんな人のおいしい部分を頭に入れておくのも大事だと思います。

Okai
なるほど。ところで岩澤さんはエンジニアとして、複雑な問題に出会ったときどう向き合っているのですか。

Iwasawa
無理難題は絶対にあると思っていますが、経験値の多い方は解決策を何かしら出してきますよね。その上での僕のやり方は、一つの解決策に辿り着いても絶対にスペアを用意することです。辿り着いた時点で考えが止まらないように。スペアを作ろうとすると、次々と思考できるようになります。
この考え方も創業者の小林さんの影響を受けていますね。あの人の考え方は、新しいことを考えるための考え方。小林さんは不平不満を解消するプランが浮かんでも、まったく違うアイデアを考えたり要求したりするんです。
『大』というアイデアがうまれたら『小』を、『小』が生まれたなら『大』を。天邪鬼のようにも思えますが、一つの視点で思い込んでしまうのを避けているように思います。

Okai
念のために用意するという意味のスペアではなく、思考を止めないためのBプランということですね

Iwasawa
はい。アイデアを作るのってすごく考えるじゃないですか。でも絶対に考え続けることはできないんです。なので僕は一回わざと考えるのを止めます。止めても頭の中はずっと動いている。なんとなくどこかで気にしていて、ある日急にそうだ!ってなってホントに解決する。
僕の場合、だいたいお風呂かトイレ笑

Okai
確かに深く意識したことは、忘れたくても頭から離れなくなります。
その状態もポジティブに捉える。

Iwasawa
そういうことです。防犯センサーの主力製品になっているレーザースキャンセンサー『REDSCAN』を思いついたときもそうでした。出張でアメリカに行っているときに、爰保さん(現取締役 執⾏役員 SEC事業本部⻑)に、「いまなにしてるの?次なに作るの?」って聞かれました。
当時、要素技術の研究を担当してたんですけど、その時は全然ノーアイデアで笑 でも過去にインプットしていた情報が繋がって、「レーザーでなんかできるんちゃう?」ってポーンと出た。そのまま会話しながら頭の中で企画が組みあがっていった。
これいけるかもなって思って、実際に長距離レーザーユニットの具体的な検討をはじめたんですが、これも本当にとんとん拍子で進みました。
そのあとカナダに行って極寒の地でセンサーの環境試験。……それはなんもおもろいことなかった。

Okai
岩澤さんは社内用のプロフィールに「私が喜び、家族が喜び、会社が喜び、社会が喜ぶ。そんなおもしろいもの作ってます」と記載されてます。
その本意とはどのようなものでしょうか。

Iwasawa
逆に言うと、自分が面白くないことをはじく、家族が喜ばないことをはじく。ということです。逆説のところに答えがある。
単純に会社で製品を開発して、その先で喜んでくれている人がいる。それってすごい嬉しいですよね。だから開発するときも「そりゃあ、お客さんは長く使えないと困るよな」とか、喜んでいただけない具体的な理由を考える。
ある日、海外のお客さんからオプテックスに手紙が届いたんです。ロッキー山脈の山小屋に住んでいる人なんですけど、「キツツキがいつもセキュリティセンサーに穴を開けて壊してしまう。なのにお前のところの製品だけは5~6年経っても動いている。なんだこれは!すごいな!実際に不審者が来た時に命拾いした。こんな状態で動いているのは奇跡だ!ありがとう。」って。
これは屋外でも強いっていう例ですけど、どうすれば不便が無くなって喜んでもらえるかなって考えて、体験しやすい形に落とし込む。そういう考えで創った製品って、つまりはお客様の声や願いから生まれているってことなんです。だから採用してもらいやすいし、結果めちゃくちゃ受けがいい。

REDSCANの展示用モデルは岩澤さんがカットした。REDSCANは「レーザースキャンニングによる人体識別方法」という特許で、近畿地方発明表彰の近畿経済産業局長賞を受賞している。

Okai
自分と相手の喜びが同じ場所にある。それがモチベーションになるということですね。
最後に、社内・社外の若い技術者にアドバイスをお願いします。

Iwasawa
上司の言うこと聞くな!笑 だって言うことを全部真に受けていると指示待ちになるから。でも、いまの世の中ってそういうコーチングをする風潮もあるよね。指示しないと動かないなんて、会社止まっちゃうよ。
あと余裕がない人も多いのかな。余裕って点数化されないから「じゃあ工夫して生まれた時間で、あなたは何をしましたか?」なんてさらに突っ込まれるし。リモート中も監視が基本になってるところもあると聞きます。
だから、「何もしてませんでした!」って言える風土も多少いるんじゃないかな。「ちょっと寝てました!」とか笑
人間、精いっぱい働いても、すごいことをずっとはできないから。
その代わり、世の中にある不平不満に満足してしまったら絶対いけない!新たなことを動かすには大きなエネルギーが必要です。その代替物としてゆとりが必要なんです。
左から1985年の京都大学バンド。2018年オプテックス社内バンドチーム。2022年びわこジャズフェス。2023年初射会。
岩澤さんはものすごく集中する。だからこそ物理的に持続できない。ならばゆとりが必要だ。ということを再度強調されました。決して指示待ち人間のお話しではありません。深く深く潜ったからこそ、頭の片隅で半自動的に解析が進む感覚、手に入れたいですね。 これを読んで、もしかしたら指示待ち人間になっているかもしれない。と思われた方は、今すぐご自身にとっての「エフェクター」を見つけてみてください。
企画・編集:岡井良文
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※本記事は2023年10月時点の情報で構成しています。