

Interview
Vol.009
信念で磨き続ける技術力
そのロックな精神と矜持
西川 高央
Takao Nishikawa
BIOGRAPHY
- 1994年 0歳
- 誕生。滋賀県米原市で育つ
- 2003年 9歳
- 阪神タイガース18年ぶりのリーグ優勝の影響で野球を始める
- 2008年 14歳
- 音楽の授業がきっかけでギターを始める
- 2012年 18歳
- 高校から始めた剣道で近畿大会に出場
- 2017年 22歳
- カヤック体験でオーパルオプテックスへ。オプテックス初認知
- 2019年 24歳
- オプテックスに入社。R&D部配属となる
- 2023年 29歳
- 担当した車両検知レーダーセンサーOVS-02GTが発売
中距離レーダープロジェクトに参画
- 2024年 30歳
- 会社で結成したバンドで大津ジャズフェスティバルに出演
信念で磨き続ける技術力
そのロックな精神と矜持
戦略本部 R&D部 R&D課 西川 高央
編集の岡井です。ものの本によると「ロックな生き方」とは、自分の価値観を大切にし、自己表現を恐れず、かつ独自性を貫く人に使う言葉のようです。 さて、今回の主人公はオプテックスのR&D部で基盤技術の開発を担う西川さん。2025年には外部研究機関とともに「周波数変調連続波を用いた中距離のレーダー技術」を確立。共同論文を発表されました。「僕がいたからこそプロジェクトが進んだと言っちゃってもいい」とロックに語る西川さん。一度は心が折れてしまったこともあったけれど、信念に基づいて歩みを進める開発者の成り立ちに迫りました。


Okai
この度FMCW MIMO(エフエムシーダブリュー マイモ)レーダーに関する論文を発表されましたね。このプロジェクトの経緯を教えてください。

Nishikawa
FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)は周波数を変えながら連続で電波を送信して対象物の反射波を解析し、距離や速度を測定する技術。MIMO(Multi Input Multi Output)は複数のアンテナを用いてレーダーを仮想的に大型化し、性能を高める技術です。今回は検知距離が400m~600mの中距離レーダーで、人の検出とトラッキングを実現しました。 主な用途としては重要施設への侵入者検知などが想定されます。
本研究は「レーダーの基盤技術をオプテックス内で確立する」というテーマで2020年頃からスタートしていました。
レーダーは高い技術力とノウハウが必要で、それまで手を出せていない領域でしたが、今後オプテックスのアプリケーションを拡大するには重要な技術になります。
得意な領域である赤外線からフィールドをさらに広げ、オプテックスが新しい一歩を踏み出す。そんなタイミングで開発に携われるのは大きなモチベーションになりました。

Okai
外部の研究機関とも密に連携を重ねたとお聞きしました。

Nishikawa
はい。まずは自分たちでレーダーで最も重要となるアナログ設計、レーダー方程式やレベルダイヤといった理論に基づいて開発を進め、技術やノウハウを構築していきました。
普段は公園などで許可を得たうえで実験している。降雪データ取得のため北陸地方に向かうことも。この日は実験風景を再現してもらった。※電波は発しておりません

Nishikawa
次に自社で開発したレーダーから得られたセンサー情報を用いて、物体を追尾するトラッキングアルゴリズムを開発する必要がありました。
しかしオプテックスにとってデジタルの領域が初の試みだったので共同開発先を探しました。難航しましたが最終的にはカナダのWaterloo大学のスタートアップ企業MMSENSEと出会い、プロジェクトを進めることができました。
今回の共同論文はこのプロジェクトの成果で、ラスベガスで行われたIEEEの学会で発表されました。
※論文の掲載ページはこちら>

Okai
数百メートル先の侵入者を検知する技術をオプテックスが開発し、センサーから得た信号を解析して追尾するトラッキングアルゴリズムを共同で開発したということですね。西川さんが担われた役割について教えてください。

Nishikawa
レーダーパラメーターの最適化 、信号処理のアルゴリズムを担当しました。文献、理論に基いてシミュレーション等での検証を行い、ノイズに埋もれた微弱な信号を高精度に検出できるようパラメーターを最適化しました。またこれらに関するシミュレーションソフトを開発しました。
ただ信号処理と一言に言っても 様々な手法があります。外部の方からアドバイスを受けたり、論文を読んだりして、計算負荷を減らしつつ高精度の検出ができる方法を工夫して作り上げていきました。
……ここで少し、図に乗ってもよいでしょうか。

Okai
どうぞ!

Nishikawa
僕がプロジェクトに参画したからこそ、大きな進捗があったのだと自負しています。
以前担当した別のプロジェクトで、レーダーに関する論文を読みまくってきた成果もあって、当時抱えていたその致命的ともいえる課題に早期に気づけたのです。さらには改善策をシミュレーションで示すこともできたので、チームメンバーの方にも納得していただくことができました。

Okai
「以前の別プロジェクト」については後で伺うとして、
その課題が残っていると何が達成できなかったのでしょう。

Nishikawa
FMCW MIMOレーダーは、オプテックスの主力製品でもある「レーザースキャンセンサー」と同様に検知範囲内の物体を高精度に捉えることができます。一番の違いは検知できる距離が長いことですね。
難しいことは端折りますが、レーダーは信号の位相の変化を信号処理することで、各種の情報を得られるんです。
そのため物体の距離・方位・速度を捉えるには、レーダーから発する信号が安定している必要があります。
しかし私がメンバーに加わるまでは、レーダーから発する信号がまったく安定していない状態で正しい情報が得られていなかった。

Okai
重大な発見です!ちなみにその「気づき」は、レーダーを専門に扱う会社にとってもすごいことなのでしょうか。

Nishikawa
うーん、当たり前のことだと思います。しかし基盤技術を確立するには自分たちで考えて、ひとつひとつ課題を解決することが重要です。
オプテックスは以前からレーダー製品も扱っていましたが、それらは他社からモジュールを購入して自社製品に落とし込んでいました。それでも良いプロダクトはできますが、本当の意味で技術を自分のものにはできていない。
長期視点での成長や飛躍を目指すには、かつての赤外線技術のように深くレーダー技術を理解している必要がある。と、僕は思っています。
パラメーターには電波の強弱だけでなく、間隔やリズムも含まれる。例えばモールス信号のように発信することで跳ね返った電波を再受信した際に、それがいつ、どこで発信されたものかを見分けることができる

Okai
「使える」と「理解している」は、また別のものということでしょうか。

Nishikawa
そう思います。ほかに苦労したところとしては日本語の資料がなかったこと。大学の図書館で洋書を借りたり、上司の森さんが何万円もする分厚い本を探してくださったり。しかしレーダーはとても奥が深いです!まだ3割も理解できていないかもしれない。
ただ僕はパラメーターをひとつ決めるにしても、その根拠を調べたいです。そうでないと到底納得できない。時間がかかったとしても本質的に分からないままでは嫌なんです。
また図に乗ってしまいますが、これは僕なりの知的好奇心というやつです。

Okai
図に乗られているというより、「自分がかっこいいと思う」進め方がおありなのかもしれないですね。

Nishikawa
言われてみれば確かに。こだわるものを決めたらなんでも深く入り込むタイプかもしれないです。あ、このテントを立てるためのペグやハンマーも、結構こだわって揃えたんですよ。
撮影の合間に「分厚い本」を読む西川さん。最近キャンプにもハマっているとのことでテントを建ててもらった。椅子やテーブルなどの軽量なキャンプグッズは屋外実験にも役立つそう。

Okai
西川さんがどうしてそのようなマインドになったのか、一緒に振り返らせてください。

Nishikawa
実は僕、一卵性の双子なんです。ただ自分も弟も理想的な状態で生まれては来ていなくって身体がとても小さかった。
それで心配した母親が、弟と一緒に色々な習い事をさせてくれました。水泳、サッカー、野球などなど、時流に合わせて僕らの好き勝手に。

Okai
辞めてみたり、始めてみたり。自由でいいですね。それらは一人で決断されていたのですか?

Nishikawa
ずっと弟と一緒だったのですが、決断に関しては常に自分でしていたと思います。親から何か言われたっていう記憶もないですね。
そんな生活の中で、最初に音楽に興味を持ちだしたのも僕でした。小学3年生の頃には親の部屋から勝手にCDを引っ張り出してきて、塾に向かう道すがら『QUEEN』をボリュームガンガンで聞いていましたね。
完全に自分に酔っていました笑
中学の音楽の授業でギターに触れてからは自分でも弾きたくなって、ゲーム機を売ることを条件にギターを買ってもらいました。文化祭では弟と一緒にステージに立ったんですよ。
そういえばこの頃YouTubeが盛り上がり始めたころで、世界観がグーンと広がったのを覚えています。僕はアーティストの歴史解説なんかにのめり込んでいきましたね。「こんな社会背景があったから、この音なのだ。」というところまで調べつくせるのが楽しかった。
高校では「ガレージロック」ならぬ「蔵ロック」に勤しみ、大学では軽音サークルに所属。研究室でのテーマは「高感度磁気センサにおける環境ノイズ低減方法」。オプテックスに直結する知識も身についた

Okai
大学ではなぜ電子工学を専攻されたのですか?

Nishikawa
動機はエレキギターの電子回路を理解するためでした。エフェクターで信号処理をして、音に味付けできる仕組みにすごく興味がありました。
ただ音楽業界を進路の選択肢に入れることはありませんでしたね。偉そうなことを言いますけど、大手の会社に入社すると万人受けする機器やエフェクターを作ることになるだろうと思っていました。僕の好みはもっとニッチなところ。少数ロットの、カスタムメイドされているような製品。
結局その志向が、うちの会社を選ぶことにも繋がったのですけれども。

Okai
大学院まで進まれた後、オプテックスに入社しR&D部に配属されました。そこで挫折を味わいます。

Nishikawa
最初のテーマは「センサーとAIを活用した技術開発」でした。街路灯の動きを加速度センサーで検知しAIで老朽化しているかを見分ける。というシステムの開発でした。
しかし、プロジェクトは中止になってしまいました。同形状の街路灯であれば老朽化検知を実現できていたのですが、街路灯のデザインや大きさって本当に様々なんです。それら全部が対象となると、特徴が違いすぎてのどうしても実現することができませんでした。
そこで一度、気持ちがボキッと折れてしまった。「自分の技術では要求に応えられない?」「技術者としてやっていける?」と心が塞いでしまったんです。

Okai
入社後の初めてのプロジェクトだからこそ、「勝率0%」を重くとらえてしまった。

Nishikawa
まさに。凹みました。でも会社なので、ずっとそのままではいられないですよね。
次にアサインされたのは車両を検知するセンサーで、短距離レーダーを扱うプロジェクトでした。そこで今の上司の大山さんや、SMS(スマートモビリティソリューション)事業部の松本さんと一緒に開発することになったのですが、こちらは順調に進んでいきました。
切り替えられたというよりは、次々と新しいことに挑戦させてもらえる中で集中していたように思います。自分の中には開発意欲が残っていたのに、ただただ自信を無くしていただけだったみたいです。
当時の僕にとって、本当に良いプロジェクトでした。色んなこともあったけど。

Okai
車両検知センサーのプロジェクトでの「色んなこと」について、聞いても良いですか。

Nishikawa
あくまで僕の視点として聞いてくださいね。誤解を恐れずに言うと、営業チームとのすれ違いが起こりました。
当初の製品要求仕様の解釈に齟齬があって、完成に近づいたプロダクトが「全然ダメ」というフィードバックを受けてしまったのです。「またしても要求に応えられないのか?」と、その時はすごく不安でした。
当時様々な立場や考え方があったと思いますが、僕は明確な合意が得られていなかった自分自身にがっかりしました。それからは週ごとの定例ミーティングに営業部にも入っていただいて、コミュニケーションを密に取るようにしました。
僕としては、綺麗ごとかもしれないですけど、現場を一番知っている営業チームの要求仕様をできるだけ叶えたかった。

Okai
時間はかかりましたが車両検知センサー「OVS-02GT」は無事完成し、
海外を中心に予想を大幅に上回る売れ行きです。生かせる教訓はありますか?

Nishikawa
しつこく合意を取ったほうがいいです。打ち合わせの結果を残して、誰が見ても分かるところに掲示するといった基本的なことも含めてです。特に僕たちのセンサーは現場があってこその製品だと思うので、上げていただく声を重視して技術を確立したい。そのためには密なコミュニケーションと合意が大事だと感じます。
言い換えると、そうですね……一緒にゴールを目指したいです。営業だから、開発だからという壁を作らないってことですかね。
社内に情報共有するチャットがあるのですが、海外からたくさんの「設置したよ!」という報告が上がってくるんです。月並みですが、これが本当に嬉しくって。やり切ってよかったなと思っています。

Okai
車両検知センサーは「短距離レーダー」でした。前半にお聞きした中距離レーダーのプロジェクトにその知識は生きましたか?

Nishikawa
それはもう!知識もノウハウも十分に生かせました。信号処理や制御の中身まで理解が進んでいたおかげで、不具合や課題があっても、自分でシミュレーションを組んで解決していくことができました。
車両検知センサーのレーダーモジュールは調達してきたものでしたが、その経験があってこそ次のステップへと着実に歩を進めることができたと思っています。
オプテックスはニッチな市場に尖った製品を次々と提供する会社です。その実現にはやはり技術を自分のものにしていくことが大切だと考えています。
そこを強みに、R&D部として全社横断的に貢献していきたいんです。

Okai
信念をもって「かっこよく」カスタムされる技術の登場、お待ちしています。
今後について考えていることはありますか。

Nishikawa
赤外線と比べると、レーダーは得られる情報が圧倒的に多くなります。ただ情報量が増えていくと、今後は人間の脳で処理できる量を遥かに超えていくことになります。
一昨年、新卒で後藤さんが入社してきてくれました。彼はAIに関する技術を独学で勉強されたり、AI開発に関するアルバイトもされていて経験が豊富なんです。

Nishikawa
入社初のプロジェクト、設備の老朽化検知についてお話しした時のとおり僕はAI活用で大きな挫折をしています。だから後藤さんの新しい知識と連携して、レーダーの応用、例えば検出した物体をAIで正確に見分ける。そんな技術にも挑戦したいと考えています!

Okai
最後に西川さんの開発者としてあり方を教えてください。

Nishikawa
入社当初は安易に答えを出そうとしていました。しかしそういったものは必ず破綻します。「ネガティブケイパビリティ」という言葉はご存じですか?「分からないことに耐える力」のことだそうです。今ってスマホで検索すれば答えっぽいものがすぐ見つかります。そして社会全体が答えっぽいものに満足してしまっている。
でもそれは答えじゃない。だから僕は、そして僕たちR&D部は求められる技術を理解して使いこなし、新しいニッチトップの礎になるものを生み出していきたいと考えています。

日進月歩の技術開発の現場ではいつだって新しい主役が生まれうるし、常にジャイアントステップを踏み出そうとしているという事実に痺れました。ところで 西川さんには子供のころから自由に挑戦させてもらえる環境がずっとありました。その経験の中で勝率の高かったスタイルがきっと、こだわる、調べつくす、納得するまでやる。というある種“ロック”なスタイルだったのだと思います。
「さらっと答えを出してはダメです。考えて、考えて、その上で自分を否定するんです。」
企画・編集:岡井良文
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※本記事は2025年5月の取材内容で構成しています。