

Interview
Vol.008
「努力の人」はいつだって
扉を開く準備ができている
カセミ ファイサル ビインアブルカセム
Kasemi Faisal Binabulkasem
BIOGRAPHY
- 1994年 0歳
- バングラデシュのブラフマンバリアで生まれる
- 2005年 11歳
- コーランの暗記を終える
- 2014年 20歳
- ダッカのダフォディル国際大学に入学。インドでの青少年リーダーシップ研修プログラムに大学のチームメンバーとして参加
- 2015年 21歳
- トルコのカラブック大学に交換留学生として留学
- 2016年 22歳
- ダフォディル国際大学のソーシャルビジネス学生フォーラムの会長に就任
- 2017年 23歳
- ダフォディル国際大学でティーチングアシスタントとして働き始める。10月に結婚
- 2018年 24歳
- バングラデシュのIT企業に入社。ダフォディル国際大学で非常勤講師としても活躍。
- 2019年 25歳
- 日本のIT会社でエンジニアとして働き始める
- 2021年 27歳
- 息子が誕生
- 2022年 28歳
- オプテックス株式会社に派遣される
- 2023年 29歳
- 前職を退職。オプテックスでソフトウェアエンジニアとして働き始める
「努力の人」はいつだって
扉を開く準備ができている
SEC事業本部 第1開発部 開発1課 カセミ ファイサル ビインアブルカセム
ファイサルさんはバングラデシュの豊かな歴史と伝統に触れられる地区、ブラフマンバリアで生まれました。11歳で約 600 ページからなるイスラム教の聖典『コーラン』を暗記した、「ハーフィズ」と呼ばれる特別な存在です。
学生時代には教育・ソーシャルビジネス・エンジニアリングと幅広い学問への興味を余すことなく探求し、アジア諸国で経験を積まれてきました。つまり大変優秀。しかしまたどうして日本に?そして滋賀県に?とても気になるセキュリティ事業本部のクラウドエンジニア、ファイサルさんの素顔に迫りました。


Okai
ファイサルさんはオプテックスでクラウド&バックエンド(ユーザーからは見えない機能・処理)エンジニアを担当されています。どのようなキャリアを積まれてきたのでしょうか。

Faisal
幼少期にコンピューターに触れた時から、動作したり機能したりする仕組みに興味がありました。ですので高校生くらいの頃はむしろハードウェアに興味があったわけです。
でも先に大学で学び始めていた友人から「コンピューターサイエンスとエンジニアリングを学んでおけば、ハードウェアの側面もカバーできるし、もっと広いキャリアの機会があるよ。」というアドバイスをもらって、なるほどと。
そこでバングラデシュの首都、ダッカにあるダフォディル国際大学でコンピュータサイエンスとエンジニアリングの学士号を目指すことにしました。
その大学で1年生の終わりに開催された国際会議に参加するチャンスがあったのですが、私はバングラデシュのクラウドコンピューティングの状況に関する論文を発表させていただきました。この時に得られた学びがソフトウェアエンジニアリングとクラウドテクノロジーへの興味をさらに高めてくれることになりました。

Okai
1年生で国際会議に挑戦。アグレッシブですね。

Faisal
いやー、実は大学に入学するまでは内向的な人間だったんですよ。でも大学に入ってからは意識的にさまざまな活動に参加するようにしました。自分でも頑張ったなと思える課外活動は、カナダトップのビジネススクールであるHECモントリオールが主催する「第一回ソーシャルビジネス創出コンペティション※」に友人4人と参加したことです。
※社会的課題を解決するためのビジネスアイデアを競う国際的なコンペティション

Okai
それは興味深い!そこではどのようなビジネスを創出されたのですか。

Faisal
主成分を地元の素材から収集し、かつ地元の技術を使用して加工する低コストの補完離乳食の販売です。
私たちは栄養失調の子供たちを支援したいと考えていたんです。

Okai
でも、勉強されていたソフトウェアやエンジニアリングの領域とは直接関連しないような。

Faisal
そうなんです!この期間はエンジニアリングで良い成績を修めながら、フィールドワークを伴うソーシャルビジネスの創出に没頭することになりました。この両立はかなりのハードワークで……。半年で体重が5kgも減りました。
でも最終的には世界2位になって賞状と共に賞金10,500カナダドルを獲得しました笑
バングラデシュの全国紙にも取り上げられたんですよ。
ソーシャルビジネス創出コンペティションに参加した友人と表彰式。そしてトルコ留学中に現地の民族衣装を纏うファイサルさん

Okai
さまざまな国や地域で学ばれてきたファイサルさんですが、なぜ日本へ?

Faisal
前提として多くのバングラデシュ国民は、長い間日本企業の技術に魅せられてきました。カセットレコーダーやビデオデッキなどの家電中心にですね。もちろん私も例外ではなく、友人にMADE in JAPANのカメラを探してもらったことを覚えています。
しかし「日本で働きたい」という意思を持っていたわけではありません。大学卒業後はバングラデシュの IT関連企業に就職し、また母校のダフォディル国際大学で非常勤講師としても働いていました。
そんな折、日本の派遣会社の求人広告がメールで配信されてきたんです。過去に魅せられた日本への興味が俄然湧いてきて、このチャンスに挑戦してみたくなったんです。すぐに指定されたプログラミングチャレンジに参加し合格し、面接も無事通過することができました。


Faisal
それから4か月間の日本語レッスンを受講して来日し、東京で1か月半過ごした後、京都でのプロジェクトにバックエンドエンジニアとして参画し始めました。それ以来拠点はずっと京都です。
最近はこの土地がますます好きになってきましたね。休日はよく鴨川べりを散歩しています。

Okai
日本に移住してみて、変わったことはありましたか?

Faisal
日本はテクノロジーや資料へのアクセスがとても容易ですよね!あらゆるテクノロジーに触れることができるし、キャリアの機会も十分得られることが嬉しかった。
例えば「Udemy」※。日本ではこのような学習プラットフォームが広く提供されていて気軽に学ぶことができましたが、バングラデシュでは簡単ではありませんでした。
※Udemy(ユーデミー)は、米国Udemy社が運営するオンライン動画学習プラットフォームです。Udemy社とベネッセコーポレーションは、日本における独占的事業パートナーシップを結んでいます。

Okai
学習しながら派遣のお仕事で経験を積まれてきたわけですが、
オプテックスはどこで知ったのですか?

Faisal
全く知りませんでした。2019年に京都での他企業のプロジェクトが完了し、次の職場としてオプテックスに派遣されたんです。初めて会社を訪れたときは、琵琶湖のほとりの自然豊かな環境に驚きましたね。
オプテックスではクラウドの仕事が増えてきて、自分に向いているなと思っていました。そんな時に正社員登用の打診をいただいたんです。それが2023年ですね。

Okai
現在はセキュリティ製品のバックエンド&クラウドエンジニアとして活躍されています。

Faisal
はい。セキュリティ製品のプログラムの設計・開発、そしてクラウドアーキテクチャーの作成を中心に担当しています。洗練されたクラウドシステムを構築するプロセスは複雑なので、なかなかの難しさを感じています。特に設計に効率の悪い部分があると、会社の利益どころか損失につながる可能性がありますから。
だから私は不必要なコストを最小限に抑えながら、高性能なシステムを構築することを最重要視して業務にあたっています。
難しさはあるのですが新しいテクノロジーや革新的な視点に出会うことは、自分の知識を豊かにし続けてくれますよね。なのでとても充実しています!

Okai
具体的な製品としてはどのようなものに携わられたのでしょうか。

Faisal
Genio Map Cloud(アラーム監視システム。さまざまなセキュリティセンサーの検知・稼働状況をクラウド管理。地図上で確認することができる。海外の警備会社や住宅管理会社で活用されている。)という既存プロジェクトのアップデートを行いました。
また、現在は研究開発段階の新しいクラウドシステムにも携わっています。
詳しくは言えないのですが、クラウドを介したセキュリティセンサーの遠隔デバイスマネジメントの実現を目指しています。

Okai
仕事で他の社員たちと連携する場面も多いと思いますが、難しいと感じる点はありましたか。

Faisal
最初のマネージャーは奥さんで、今は岩田さんがマネージャーだったのですが、お二人は「無理をしすぎないこと!」と強調され、いつでも協力的でいてくださりました。
想像してもらうと分かりやすいかもしれませんが、外国で親戚のサポートなしに3 歳の子供を育てるのはなかなか困難ですよね。しかし労働時間や休日の取得に柔軟性持たせてもらえていますし、緊急の時も看護休暇を利用させていただけるので安心しています。
現在のプロジェクトは清水さんに監修していただいているのですが、本当に多くのことを学ばせていただいています。会社の体制としては上司と部下のような関係かもしれませんが、それよりも遥かに親身になって対応いただいていて。仕事のことだけでなく生活面もサポートしてもらえているくらいです。
他の社員の方々も当初日本語や文化に精通していなかったことを考慮して、分かりやすい言葉を選んでくれるなど、いつも協力してくれました。
オプテックスの正社員になることは、私にとって簡単な決断だったんですよ。
岩田さん(写真左)、清水さん(写真右)と密にコミュニケーションをとりながら仕事を進めている。

Okai
働く環境についてはどのようにお感じですか?

Faisal
企業として従業員の健康、特にメンタルヘルスのサポートに重点を置いている点が良いですよね。派遣社員としてオプテックスに来て社内ツアーを行ってもらった際に、従業員をサポートする環境を作りに感銘を受けたのを覚えています。当時は本社の3階に「リラクゼーションルーム」という、業務中にリラックスできる部屋があったことも印象的でした。最近は「たたみ」という和室の部屋がお気に入りで、頭が疲れた時はそこで短い仮眠をとって集中力を維持するようにしています。
また私はイスラム教徒ですので1日に5回の祈りの義務があります。日の出前、正午、午後、日没後、そして夜の就寝前です。職場では通常正午と午後に、また日没が早くなる冬の間は夜の祈りを会社で行っています。1回の祈りの時間は5分ほどですが、足りなくなってしまう所定労働時間分は、通常の就業時間後に業務する形で会社に調整いただきました。
この日はバングラデシュの民族衣装も披露してくれたファイサルさん。お祈りの場所から望む山の景色がお気に入り

Faisal
ラマダン(断食を行う期間)もイスラム教徒にとって特別な期間となります。この間は夜明けから日没まで断食し、職場でも食べ物と水を断っています。
日本が信教の自由を認めてくれていること、そしてオプテックスが自分に合わせてスケジュールや場所の融通を図ってくれていることに感謝しています。おかげで今は何不自由なく働けていますよ。

Okai
不自由なく働けているとのことで良かったです。
ご家族との日本での生活にもご不安はないですか?

Faisal
とても楽しんでいますよ。家族は私、妻、3歳の息子の三人。私の妻も同じ大学でコンピュータサイエンスとエンジニアリングを学びました。私は息子が起きる前に会社に行くので、仕事から帰ってから息子と過ごす時間を大切にしています。
過去に苦労した点でいえば、言語に加えて宗教上の食事制限の確認(ハラール。イスラム教徒が問題なく食べることができる食品や飲み物)が大変でした。しかし今では大丈夫。
特に助けになったのは店舗で製品のバーコードをスキャンすれば、ハラールに従っている食品かを確認できるスマホアプリでした。

Okai
食のハナシで言えば、バングラデシュではイリッシュという魚を使ったカレーが有名ですよね。

Faisal
良く知ってますね笑 バングラデシュでイリッシュは格別な味と香りで知られる国魚です。残念ながら日本では生のイリッシュは手に入りません。
ただ東京や群馬周辺の一部のショップでは冷凍のイリッシュが販売されていて、私も時々自宅で楽しんでいます。
カレーはバングラデシュ料理の定番ですが、妻と私は日本食を探索するのが大好きです。おいしい日本料理にも沢山出会いましたが、私の一番のお気に入りはラーメン。時々家でも作ります。京都にもハラール対応のおいしいラーメン店があるんですよ。
同僚の西原さんの田んぼで、稲刈り体験をするファイサルさん。下段はもはやプロ級の奥様謹製オリジナルラーメン

Okai
まだまだお聞きしたいことがありますが、なんだかおなかが減ってきました。
ファイサルさんの今後やってみたいことをお聞きして、今日は終わりにしたいと思います。

Faisal
山、海、川が大好きなのですが、日本には自然が豊富にありますよね。私は故郷のティタス川近くの平地出身なので、常々山を探検したいと思っていました。先日友人と北アルプスの立山(標高3,015m)に登山に行き、その夢は実現できました。次は富士山に登ったり、北海道の自然のままの湖で泳いだり、太平洋の島に行ってみたいです。
自然を愛するファイサルさん。仕事が煮詰まると琵琶湖のほとりを歩いて頭の中を整理する

Faisal
仕事においてはAIの専門知識を備えた、クラウドインフラストラクチャーのスペシャリストになれるよう努力したいです。世界がクラウドとAIの時代に移行する中、テクノロジーの進歩の最前線に留まり続けるためには、この分野の習熟度を高めることが重要になると考えているので。
オプテックスの事業もこれらの分野と密接に関わってくると予想していて、スペシャルな人材として自分自身を位置づけられれば嬉しいですね。
そしてプライベートやビジネスに関わらず、世界中を旅することが夢になりました。
仕事で日本にやって来たことが、この新しい扉を開く第一歩になったと感じています。

日本やオプテックスの文化になじみ、仕事や生活を充実させているファイサルさん。その努力を惜しまない姿勢があるからこそ、人生に時々しか訪れないチャンスを掴むことができるのだと思います。そのような姿はとても魅力的であるし、オプテックスに馴染むのでしょう。さて余談ですが、日本のアルプスで『怪異』に出会ったファイサルさん。スピリチュアルなお話しに興味のある方はぜひご本人まで!
企画・編集:岡井良文
ご意見・ご感想がございましたら、お気軽にお寄せください。
※本記事は2025年2月の取材内容で構成しています。