Interview

Vol.004

駐車場ビジネスの
最前線に挑む人たち

日本パーキングビジネス協会 × OPTEX

清家 政彦 中島 忠大 角南 拓哉

Roundtable discussion

駐車場ビジネスの
最前線に挑む人たち

日本パーキングビジネス協会 理事長 清家 政彦 様
日本パーキングビジネス協会 理事  中島 忠大 様
オプテックス SMS事業部 事業部長 角南 拓哉

Ripple Workers Indexは波紋のように社内外で響き合い、世の中を良くしていくキーマンたちも取り上げます。今回は初の座談会形式。

日本で唯一の駐車場ビジネスの集まり「日本パーキングビジネス協会」から理事長の清家 政彦様(セイワパーク代表取締役社長)、理事の中島 忠大様(株式会社N-STOUT代表取締役社長)をお迎えし、オプテックスで車両検知センサーを世界展開するSMS事業部の角南さんを交えて、「駐車場ビジネスの今」について語っていただきました。

いつも私たちが利用する駐車場は今、時代の変化点にありました。

Okai

Okai

今日はよろしくお願いします。
駐車場業界はいまどのような状況にあるのでしょうか?

Seike

Seike

コインパーキングの業界って感覚的には30年くらいまったく変わっていなかったんです。機器も運営もそんなに変化がなく成熟産業化してきました。

でも変化が起こって来ています。例えば「フルキャッシュレス」のパーキングが急激に広がってきていること。これにはさまざまな要因があってインボイス制度に対応するには通信機能が必要(編集部注:インボイスには長期間の保存義務があり、精算機に通信機能があればローカルではなくクラウドでデータ保存が可能)だとか、政府のキャンペーンでキャッシュレス決済が一般に広がったことだとか。これらをきっかけにして、業界自体がデジタルの方向へ移りつつあると感じています。

またフルキャッシュレスと言ってもいくつかパターンがあります。車両検知センサーの検知情報から駐車料金を算出しお客様が支払うパターンでは、スマートフォンを利用した決済の仕組みとセンサーがセットで必要です。

一方、スマートフォンでお客様がご自身で入庫時にチェックイン、出庫時にチェックアウトして利用時間を確定する。つまり自己申告制で支払うパターンでは看板だけ設置すれば運営できるようになります。

Sunami

Sunami

清家さんおっしゃるとおり、看板だけで成り立つ駐車場も増えるでしょうね。我々としてはセンシングで貢献したいので、正確に時間を測らなければならない駐車場でセンサーを有効活用していただきたいです。

Seike

Seike

そうですね。場所やニーズによって最適な形は違いますし、フルキャッシュレス導入の速度も異なるでしょう。例えば商業施設の駐車場は老若男女様々なお客様に対応しなければなりませんから、現金を直ちに無くすことはできないでしょう。そのためフルキャッシュレスへの変化は多少遅れるかもしれません。
しかし、いずれのコインパーキングの形態もキャッシュレスに対応してくんじゃないかな。

Nakajima

Nakajima

次の変化のきっかけは「新札」(※編集部注:偽造防止にため2024年7月3日に、一万円、五千円、千円の3券種が改刷予定)になると考えています。精算機やその一部品の交換には費用がかかりますが、これまで様子を見ていた運営側も何らか対応しなくてはなりません。私は新札に物理的に対応するよりも、キャッシュレスでの対応がメインになると思っています。

また銀行に現金を入金する際の手数料も高くなってきていますので、バランスを考えてキャッシュレスで集金業務の負荷を下げることも考えられますね。

向かって左から清家さん、中島さん、角南さん。オプテックスの東京オフィスにて

Okai

Okai

駐車場ビジネス業界にも人手不足の問題があるのでしょうか?

Nakajima

Nakajima

コインパーキングの運営にあたって、最も人手不足になりやすいのがコールセンターと警備です。365日24時間という職種にはだんだん人が集まらなくなっている。
そういう意味ではもう、人の問題は起きていますね。

実際に地域によってはコインパーキングのニーズがあるのに、集金する会社も清掃する会社も見つからない。ということが起きています。

Seike

Seike

清掃はまだなんとかなるのですが、集金業務がとても大変ですね。現金を安全に集めて回る負荷の高さはネックになっています。

Okai

Okai

現金からキャッシュレスに移行すると他にどのようなことが起こるでしょうか?

Seike

Seike

オール現金の時代は顧客属性すらイマイチ分からなかった。それがデータが取れるようになるので、より顧客に寄り添ったサービスが広がっていくんじゃないかと期待しています。

例えばたくさん使ったらプラチナ会員になれるとか、それがステータス性にも繋がるとか。ランクに応じた割引があったっていい。
センサーやアプリのデータを分析すれば、同じような駐車場を長期間使ってくれている方に「月極プランで安くなりますよ」といった提案もできるでしょう。

このような取り組みを、業界全体で推進できたら面白いですよね。

Seike

Seike

他にも顧客データ活用に近い話になりますが、収益予測や料金体系の最適化はAIが担っていくと以前から考えていました。実は駐車場の売り上げ予測ってものすごく複雑で、隣に工事現場ができただけで大きく変わります。
細かな作業を一つひとつの駐車場でやっていかないといけないんだけど、これをAIがやってくれたらと思っていました。

実際に一部でAIをつかった収益予測がスタートしていて、その先にあるダイナミックプライシング(編集部注:需給バランスによって価格を調整する仕組み)にも派生し始めています。「おそらく将来こうなるよね」と思っていたことが、一気に、この1、2年で動きだしたなという感じがしていますね。

Okai

Okai

中島さんと角南さんはダイナミックプライシングの実証実験を行われていました。

Nakajima

Nakajima

少し前からオプテックスさんと、実験的に僕の会社の駐車場でダイナミックプライシングを導入しました。

これまでも運営会社さんが見学に来られてたんですけど、最近特に気になっている方が増えていると感じています。まだ課題もありますが、流れがきているのは事実ですね。

Sunami

Sunami

当初はオプテックスの新型車両検知センサーをテストするために連携させていただいたプロジェクトでした。車両が駐車スペースに滞在している時間を正確に測る必要があるシチュエーションですので。

Okai

Okai

ところで駐車場業界への新規参入は増えているのでしょうか。

Seike

Seike

これは確実に増えてますね。センサーのオプテックスさんもそうですが、これまで入会していなかった業界からどんどん入会していただいています。例えばアプリ系やカメラ系の会社。

Nakajima

Nakajima

最近入られた面白い会社さんでいうと、人工衛星を使って土地を探す技術をお持ちのところ。駐車場に最適な土地を効率的に探せるようになるのではないかと期待されています。

Seike

Seike

今後のトレンドはセンサーとカメラ。そしてAI。このあたりが要になってくると思っています。ずっと変わらなかった駐車場業界がどんどん動き始めています。

また僕はもっと先のことを考えている会社さんもあると思っていて、恐らく次に大きなインパクトが生まれるのはIT大手の自動車が発売されると言われている2026年以降でしょう。自動運転や車内のエンターテイメントアプリなどとセットで大きなイノベーションが起こると思っています。

駐車場の看板を探して走るような行動は恐らく無くなって、目的地を入れたら空いている駐車場を予約して走ってくれるように当然なるでしょう。コインパーキングからのデータ提供はきっと重要になってくると思います。

Sunami

Sunami

我々もこれまではセンサーと精算機間の情報提供が主でしたけど、どこの車室が空いているかという情報をクラウドに上げられるようになってきました。

社内の他の動きとしても自動ドアセンサーにビーコンを搭載して人流把握を可能にするなど、全社をあげてデータの有効活用を進めているんです。このような社内連携を通じて、さらに業界発展に貢献できるんじゃないかと考えています。

Okai

Okai

オプテックスは昨年、新型の車両検知センサーも発表しました。

Sunami

Sunami

はい、アメリカで2023年8月から先行販売を開始しました。お陰様で非常に好評です。特に海外だと景観保護の観点で、ループコイル(編集部注:地中埋設型の車両検知センサー)を埋めるために路面を切りたくないという要望が強い。

他にも自然環境や労働環境に敏感で、アスファルトをカットする時の粉塵対策が必要ということで、ポール設置型のセンサーが求められています。

2023年8月に発売した車両検知センサーOVS-02。アプリでセッティングが可能で一度設定した数値やステータスの再現も容易になり好評だ。日本でも同年11月より販売を開始。

Okai

Okai

環境問題というキーワードは、
日本のパーキング業界でも話題にあがっているのでしょうか?

Seike

Seike

具体的な要求というのはまだないですが、今後求められることもあるでしょうね。我々としても環境配慮型の製品やサービスといった選択肢を持っておくべきだと思います。

ただし、ビジネスに乗せない限り環境問題というのは解決しないんです。分かりやすいのがパーク&ライド。あれが軌道に乗ったのは収益があるからなんです。まずは稼げるようにするのが大事。

Sunami

Sunami

そうですね。基本的にループコイルは安価に導入できるものですし、我々のセンサーは価格では勝てません。強みとしては地面をカットする労力分のコストダウンになったり、使い回しができたりするという点。ループコイルは便利だけど撤去する時に掘り起こして産廃として捨てないといけません。

埋設式のループコイルとポール設置型のセンサーのイメージ。路面切削時には粉塵対策で水を散布するが、回収し産廃として処理する必要がある。

Sunami

Sunami

OVS-02ならセンサーをポールごと倉庫に保管して、次の現場にもっていっていただける。それが何ターンかしていくと費用面もグッと抑えられるし、環境への配慮という点でも倍々になっていくと期待しています。

Seike

Seike

今おっしゃったことは、本当に大切だと思います。我々のビジネスって基本3年契約。だから次々と管理する業者も入れ替わります。付け替えができるというのは有効な環境貢献ということになりますよね。

例えば中国は電気自動車化が進んでいるけど、実は中古車市場には出回ってないんですね。つまり大量の廃棄が出ている可能性が高い。環境にとってはちゃんと使い回しができるというのは大きなポイント。

この業界は暫定利用が多いのですからね。建物が建つまでの間とか、そういったところには特にフィットすると思います。

普段私たちが目にすることがないループコイル。その電線がどのように駐車場の車室ごとに埋まっているかを1/2スケールで再現いただいた。想像以上のサイズに編集部は一驚を喫した。

Sunami

Sunami

ちなみに駐車場を一番短く運用されるケースって、どのくらいの期間なんですか?

Nakajima

Nakajima

僕が知っている中で、一番短いのは3か月ですね。(一同驚き)
実際に多くのケースでは中古の機械をもっていって、設置するパターンが多いと思います。

Sunami

Sunami

オプテックスではこの新しいセンサーを、早く広める取り組みとして「ViiK(ヴィーク)エコシステムパートナー」を開始しました。
これは環境や社会に優しいセンサーの普及にご賛同いただき、駐車場業界のエコシステムを構築するためのパートナープログラムです。

実は一部の運営会社さんには「ループコイルを廃止する」とおっしゃるところも出始めている。そんな中で我々としては、信頼に足るセンサーを一緒に鍛え上げて広めてくださる会社さんを募集しているんです。
具体的にはオプテックスから好条件で車両検知センサーOVS-02をご提供させていただく代わりに、共同テストの場を提供いただく取り組みです。

現在、駐車場機器メーカーの各社様からご賛同いただけるような、前向きな返答をいただいています。

Seike

Seike

繋がりの拡大を含めて改めて協会を利用していただければいいですし、こういう動きがあるのは良いことだと思います。

僕自身も会員と一緒に県外視察に赴くなど連携していますよ。

Sunami

Sunami

ありがとうございます。
「環境貢献し、ビジネスも両立したい」と考えられる事業者さんがいらっしゃっても、方法論はいっぱいありますよね。カメラでやるケースももちろんありますし、どっちが良いとかじゃなくて、業界全体で取り組めたら絶対盛り上がっていきますよね。

Okai

Okai

最後に協会として今後取り組まれたいことをお教えください。

Seike

Seike

駐車場はフラップレス(※編集部注:フラップレス=不正利用防止の板を設置しない駐車場)が主流になりつつあるから、今後車室に関しては当然ループコイルが減るんですよ。さっと置いて稼働できる(ポール設置型の)センサーに移行していくでしょう。

そこで今取り組んでいるのは、停めた後に料金を払わず出て行ってしまうような不正駐車対策です。協会として対策のガイドラインを作って共有したり、「不正駐車は威力業務妨害で犯罪である」ということをみんなで周知したりしていきたいんです。我々の力で不法行為を減らすことができれば、一般の方々が安心・快適に利用いただけるという「社会的なメリット」に繋がります。

いまでも我々協会員が一丸となったら、すごいことができると思っているんです。協会全体でトータルすると7万~8万箇所という好立地に駐車場をもっているわけですから。

とはいえまだまだ入会されていない会社さんもいらっしゃるので、さらに会員数も支部も増やしていきたいですね。

Nakajima

Nakajima

僕は不正駐車だったら国土交通省、インボイスだったら財務省と連携したいと考えています。だけれど個社だとなかなか大変だし動いてくれないですよね。

集まってこそ初めて大きな力になるんです。協会に入っていただいて、情報を共有して、国と一緒に問題解決につなげたい。それがいま僕が一番望んでいること。

Sunami

Sunami

パーキングビジネスとして成長する、あるいは儲けていくには、絶対的に必要な取り組みだと思いました。集まって大きな力にして、外とつながって解決する。

Seike

Seike

そのとおりです。その中で今後も新しいモノや力が生まれ来ると信じています。
これからも協会での連携を通じて、日本のパーキングビジネスや社会を良くしていきましょう。

  

清家 政彦さん
セイワパーク株式会社代表取締役社長。1971年生まれ。太宰府出身。福岡大学附属大濠高校〜立正大学経済学部卒。株式会社山善を経て1999年に前身となるセイワシステム株式会社に入社。2009年に社長就任。


中島 忠大さん

株式会社N-STOUT代表取締役社長。1975年埼玉生まれ。大学卒業後、オフィス関連飲料企業 に入社。2006年に駐車場運営会社に転職。2018年に独立起業、現在に至る。


角南 拓哉さん

1997年オプテックス入社。マーケティング、商品企画、アプリケーション開拓を担当。 2016年より車両センシング分野の責任者として、国内外での事業拡大をリードしている。

長年固定化していた業界は自分たちの利益を守るために閉じこもってしまうもの。しかし日本パーキングビジネス協会は、積極的に情報を会員に提供し、新しい風も広く受け入れられています。これからの発展にいち生活者としても期待が高まりました。

同時にオプテックスが主体的に業界関係者を巻き込んでいく取り組み、ViiKエコシステムパートナーの展開にもどうぞご期待ください。


企画・編集:岡井良文
ご意見・ご感想がございましたら、お気軽にお寄せください。

※本記事は2024年1月時点の情報で構成しています。