Interview

Vol.003

自動ドアセンサー「OA-215」は
生まれ故郷で旅人を迎える

エントランス事業本部 開発部 開発1課

下地 健太

Kenta Shimoji

BIOGRAPHY

1985年  0歳
沖縄県宮古島に生まれる。当時は月曜発売の雑誌が木曜日に届くド田舎
1998年 13歳
中学時代は水泳部とバスケ部に所属
2001年 16歳
友達5人と軽音楽部を設立。コースは普通科
2003年 18歳
大学入学。初めて島を出て福岡へ。バイトと飲み会の記憶しかない
2010年 24歳
OPTEX入社。3か月の研修を経て、エントランス事業本部に配属
2012年 26歳
自動ドアセンサー「OA-215」シリーズの開発担当に抜擢
2017年 31歳

「トレーニー制度」に応募して欧州に1か月滞在。当時TOEIC500点未満だった

2024年 38歳
全社の働き方改革プロジェクトに参画

自動ドアセンサー「OA-215」は
生まれ故郷で旅人を迎える

エントランス事業本部 開発部 開発1課 下地 健太

エンジニアは、いつからエンジニアを志すものでしょうか。オプテックスの主力製品、赤外線自動ドアセンサー『OA-215』を開発した下地さんは大学の最終学年でも開発者を目指していませんでした。

故郷宮古島で友達と過ごした時間に『小さなチームで1から最後まで創る』ことにハマった下地さんは、やりたいことではなく、理想の働き方を求めてオプテックスに入社します。

そこで待ち構えていたのはハイエンドの製品をコンパクト化しつつ、機能を維持させるという錬金術のような課題でした。現在、国内で30万台も稼働している自動ドアセンサーの開発秘話をご覧ください。

エントランスでセンサーを眺める開発者
Okai

Okai

土日も学校に行くくらい楽しかったという高校時代。
どんなモノを創ってたんですか?

Shimoji

Shimoji

別に形があるものでなくても良かったんですよ。「クラス会」という集まりだったのですが、海辺で花火しようとか、それだけじゃつまんないからファッションショーのような企画を追加してみようとか。

とにかくみんなで楽しそうなことを創る会でした。映像を作ったり、軽音楽にはまったり。これもコピーとかじゃなく物語や楽曲から作るのが好きでした。

いま振り返ってみて思うことは、僕は「小グループで何か成し遂げる」っていう楽しさが、一生忘れられない人間なんだということです。

大学は一応工学系の分野に進みはしたのですが、あまり褒められた生活は送っていませんでしたね笑
ですので手に職と言えるような技術はなかったのですが、就職サイトの情報に「オプテックスの開発は、企画から量産化まで一気通貫で参画できる」っていうのがアピールポイントにあって、候補に加えたんです。

最終的に第一希望だった大手企業の最終面接には伺わず、オプテックスに決めました。

Okai

Okai

第一希望の選考を止めるというのも勇気のいる判断だったと思います。

Shimoji

Shimoji

実はその企業も「一気通貫」をアピールされていました。でも選考が進む間に何度か会社に伺うじゃないですか。その時にいつ行っても社員さんが疲れてるような、イライラしているような。。。
とにかく雰囲気がちょっと暗いと感じました。

一方のオプテックスですよ。筆記試験中に、隣の部屋からドでかい笑い声が聞こえて来たんです!ゲラゲラって!『大人の会議ってそんなんじゃないだろ!』と心で突っ込みつつ、すごく驚きました。
働いててそんな面白い事ってあるの?って。

余談ですけど、多分あれ、前川さん(現 品質管理本部長)だったと思うんです。そんな雰囲気にやられて入社した僕はつまり、社員の笑い声に人生替えられちゃったってことですね笑

Okai

Okai

今回は下地さんが開発した「OA-215」という自動ドアセンサーを深堀したいと思っています。
自動ドアセンサーは人が通ろうとしていることをドアに伝える役割を持ちます。

Shimoji

Shimoji

はい。一般的な自動ドアセンサーからは赤外線が常に床に向かって照射され、床から反射される光の光量を見ているのですが、人が通ると赤外線の反射量に変化が生まれます。それで人がいると判断できるんです。

またオプテックスのセンサーは人以外のもの、例えば雨や落ち葉を検知して誤作動しないように独自のアルゴリズムを採用し、長年磨きをかけてきています。

ここで最も重要なのが『素子』というパーツ。簡単に言うと赤外線を照射する光源と、跳ね返ってきた赤外線を受け止める受光部の役割を果たす部品ですね。

実は自動ドアセンサーに使われている素子やレンズってすごくシビアな性能が求められます。長い年月にわたって悪環境に耐えるレベルに仕上げないと、お客様の要求を満足できないので。

パーツメーカーの方によると、オプテックスの素子に対するこだわりは『自動車業界』と同等のレベルとのことでした。

ただし素子自体には自動ドア専用のモノが存在しないんです。ですので使える素子を世界中から探し出し、厳しく評価するのも自分の大事な仕事です。

  • テラスでインタビューをうける開発者

グリーンの基板左右に複数個並んで設置されているのが発光ダイオード(照射する光源)とフォトダイオード(受光部)。本稿では両パーツを指して『素子』と表現している。

Okai

Okai

「OA-215」ではこの『素子』に関わる技術がチャレンジングだったと聞いています。

Shimoji

Shimoji

「OA-215」の開発へのオーダーはこうでした。「汎用性を高めながらハイエンドモデルと同機能を実現する。よりコンパクトにするために、素子をも減らす」。


……絶対無理だと思いました。


素子の数は自動ドアセンサーによって異なるので、ここでは当時のハイエンドモデルを例にしますね。
従来の自動ドアの「人を検知するエリア構成」のやり方だと、エリアの列数に対して必要な素子の数は同様になります。このセンサーの場合、赤外線の光源となる素子が5列、そして受光するための素子が5列あります。これでドアウェイの安全確保と、快適性を担保しています。

列が多いと広い検知エリアを構成できるので、ドアのギリギリだけじゃなくて遠くから向かってきている人も検知できるように設定できます。つまり速く歩く人もスムーズに通行できるんです。

また1列分をドアウェイ、つまりは自動ドアが開閉する道の上に配置してあげることで、人がいる間はドアが閉まらないように制御しています。

青の四角部分が自動ドアセンサーが人を検知できるエリア。広い検知範囲を構成することでより快適になる。また1列目がドア対して交差するように人を検知し、ドアを安全に制御している。

Shimoji

Shimoji

つまりこれまでの常識では、快適性と安全性を高めようと思うと素子の追加が必須だったということです。

ハイエンドモデルと同じ機能を、コンパクトに実現するというのは正直無理難題だと感じてしまった。

Okai

Okai

それでもチャレンジできたのはなぜなのですか。

Shimoji

Shimoji

5名のメンバーのうちリーダーを除く4名は全員若手でした。しかも一から製品開発するのは初めてという。なかなか思い切ったアサインだと思いませんか。

逆に言うと、良い意味でも悪い意味でも「この技術は絶対実現できません!」って反論できないんですよ。経験がなさ過ぎて笑

それゆえに悩んだ期間は長かったですね。奥行き方向に6列の検知エリアを構成する予定でしたが、通常は「同じ列数」の素子が必要です。しかし素子の数が増えると基板が大きくなってしまう。

様々な場所に設置頂くには、横幅や奥行きをコンパクトにする必要があるんですがどうやっても収まりませんでした。

当時の上司とプロジェクトチームでブレストを重ねる中、最終的にたどり着いたのが光を分解する発想。光の屈折・分解効果のある『プリズムレンズ』を用いた打開策でした。

ただし、この手法にも課題はありました。

Shimoji

Shimoji

ちょっとマニアックな話になりますが、新光学系では二分割のプリズムを使用しました。

右側の受光素子から説明すると二分割のプリズムを介するため、受光側が見られるエリアは素子の数に対して2倍されます。

同様に投光素子も二分割プリズムを通ってエリアを形成するため、各素子一つにつき二つのエリアを形成します。
しかし単純に2倍されてしまうため「どの光がどの素子から出ているか」を受光側で判別できなくなってしまうのです。
このままだと、どの列に人がいるかが判別できないので使い物になりません。

そこで僕は業界初となる技術(後に特許を取得)を盛り込み、素子を減らした状態で6列のエリアを実現しました。

これが光学系の最大のポイントです。

Okai

Okai

理論は分かりました。
しかし『素子』を疑似的に増やすのは簡単ではないように思えます。

Shimoji

Shimoji

実現するまでには困難を極めました。

例えばセンシングの性能を確認するテストは、光を照射して条件によって変化する感度を調査しています。

詳しい手法はお話しできませんが、しゃがんでは立ち上がる動作はほぼスクワット笑
長い日だと一日5時間、それだけをずっとやっていました。

太陽光の影響を確認する為に、真夏の炎天下の中で数時間ぶっ続けで評価を行ったこともあります。また自分ではないですが、チームのメンバーは雪や吹雪の影響を確認する為に北海道にまで行ってくれました。

しかし誰も見たことがない機構を入れているので、動作に不具合があった際に原因がなかなかつかめない。これがプロジェクトを大変にしていましたね。文字通り一つひとつ潰していって。

(下地さんの顔がだんだん暗くなる)

オプテックスには「検証会」と呼ばれている開発部全員で行う技術レビュー会があるんですね。ここには百戦錬磨のメンバーがずらりと並んで、技術と実現性について様々な角度から検証が行われます。開発陣もお客様のことを第一に考えているので、ここの評価はめちゃくちゃ厳しいんですよ。

この検証会の数日前に問題が発覚した時には、チーム全員が絶望しました。。。

Okai

Okai

しかしちょっとここには書けない努力で乗り越えられました。大団円です。

Shimoji

Shimoji

それが、プロジェクトの途中で「素子配置の生産工程を自動化しよう」となったんです。

もちろん素子の配置は性能を引き出すために重要なポイントで、正確な位置を決めるためだけにわざわざ部材を追加するほどです。そして人の手で丁寧に組み込んでいる。

いつだったか、海外メーカーが視察に来た時に「そんな部材までつけてるんですか!?」って驚いていました。

でも逆に言うとそれだけ人に負担がかかっていたので、工程を自動化できたとしたらより安定的に生産できる可能性も秘めていたんです。

Okai

Okai

部品を減らしてハイエンド同等品にして、生産を自動化。

Shimoji

Shimoji

……狂ってましたね笑

でも生産技術の方にアドバイスもらいに行って「できるかもな。」って言われちゃうと、そんなものなのか~ってなってました。若いし何も知らないから!

生産の自動化は外部のコンサルタントさんに教えて貰いながら進めたんですけど、すごく細かい機構の設計思想まで問われました。例えば部材のR(角の曲がっている部分)はどうしてつけたの?どうしてこの角度なの?とか。ちょっと怒られながらも必死でやっていました。

この時得たノウハウはエントランス事業部内でも水平展開されていて、他のセンサーの工程自動化にも生かされています。

トータルするとかなりの台数に貢献していると思いますよ!

  • 4名の開発者によるMT風景
  • 当時のデザイン検討イメージ
  • 当時の開発現場
  • 当時の試験
  • 当時の雪試験

当時の電気、ソフト、機構の各担当とリーダーに集まってもらい過去を振り返った。

Okai

Okai

最終的に全てを実現できたポイントはどこにあるのでしょう。

Shimoji

Shimoji

このプロジェクトで特許化できたアイデアは確か全部で3、4件あったと思うのですが、いずれもチーム内での会話の中から偶発的に生まれたものでした。

ああでもない。こうでもない。と話している内に、たまたま出てきたアイデアが製品化・特許化までつながっていきました。この時期は色々な人と集まって話し合う頻度が多かったように思います。

部署による縦割り感が少ないんじゃないでしょうかね。電気・機構・ソフトと分かれてはいますけど、僕が電気設計者にアイデア投げたり、逆にこんな機構にしたら解決できそうじゃない?と提案をもらったり。

お互い自分の領域を少しづつ逸脱しながらやっているんですね。それが「OA-215」の成功につながったのではないかと思います。


個人的にはこれからもそうであってほしいですね。……なんだろう、関わる人全員が全員、製品に興味を持っている状態というか。

別の企業で働く友人たちと話すこともあるんですけど、彼ら曰く「俺らが開発したものが、どこで役立ってるのかさっぱりわからん」って言っていました。それを聞くと僕の方が楽しんでるよなと思えるんです。


そうです、僕はやっぱり「小グループで、一からみんなで成し遂げたい」。

Okai

Okai

ご苦労以外にも印象に残ったことはありますか。

Shimoji

Shimoji

量産開始してしばらく経った頃、会社近くのある店舗に「OA-215」が設置されたらしいという情報をつかんだんです!その日の定時後にチームメンバー全員で車に乗って、現場まで見に行きました。あの時の高揚感は今でもはっきり覚えています。みんなワクワクドキドキで。

たしか工事中のコインランドリーだったと思います。到着していざ見上げたら、何もついてない笑

結局その日は「OA-215」が設置されている所を見ることはできなかったのですが、その後、チームメンバーと実際に取り付けられている現場を見つけるたびに写真を撮って見せ合っていました。

水盤に立つ開発者たち
Okai

Okai

事業部配属時の夢は、故郷の宮古島にご自身のセンサーがつくことだったとお聞きしました。

Shimoji

Shimoji

はい。エントランス事業部に配属された際に面談をする機会があったのですが、「あなたの夢は何ですか?」と聞かれたときに応えました。

数年後に僕の結婚式で、自分の代表作として「OA-215」が紹介されたんです。当時の上司の計らいで。
式を終えてしばらく経ったある日、妻の親戚から「あなたの旦那の代表作付いていたよ」と写真が送られてきました。

宮古島の、旅人がよく訪れる施設に付いた「OA-215」でした。

Okai

Okai

故郷でご自身の製品が活躍しているとは、凱旋感があって感動的です。

Shimoji

Shimoji

いえ、それは全然違います。
宮古島って、僕が住んでた頃は本当にどうしようもないド田舎だったんです。誰にも見向きもされない。そんな島。

でも故郷にまで自分のセンサーが届いたとしたら。それはきっと日本の隅々にまでセンサーが届いた証なんじゃないかって、当時そう思ってたんです。

今となってはたくさんの人が訪れる島になったので、ちょっと違うかもしれませんけどね。日本中で自分の製品を使ってもらうという夢は叶ったと思っています。

Okai

Okai

最後に今後の抱負を聞かせてください。

Shimoji

Shimoji

僕は世の中のデファクトスタンダードを作り上げたいと思っています。

今は近づけば勝手にドアが開くことが当たり前の世界になった。そういう世の中の新しいデファクトとなる製品やサービスを作り上げたいと考えています。

自分はちょっと我が強いところがあって笑
担当する製品には少しでも良いから独自のアイデアを入れ込みたいと考えています。当然より良いものを生み出し、会社や社会に貢献するということが前提で。

そういった意味ではOPTEXには、いち設計者の意見でも真摯に受け入れてくれる土壌があります。設計手法だけでなく、製品仕様やコンセプト、企画の進め方等の上流部分に対しても同様ですね。

『個』も尊重されるのは企業理念であるI.F.C.S.が浸透しているからだと思っていますが、結果として「これは自分の作品です!」と自信をもって言える度合や製品に対する愛着が大きい気がします。

5年目にして宮古島に自分の開発したセンサーを付けるという夢は叶いましたが、次の自分の夢「デファクトスタンダードを創る」をこの環境で実現できたとしたら。

これほど自分の人生が豊かになることは無いのかなと考えています。

  • 湖畔に立つ開発者

極限までセンサーの誤動作を削減し、安全・安心・快適を高い次元で融合させる。その中でサイズ・性能のベストバランスを見つけるためには「時にセオリーを崩さねばならない」と下地さんは言います。普通の開発者が踏み込まない荒野には、まだまだ面白い技術が眠っていそうです。

企画・編集:岡井良文
ご意見・ご感想がございましたら、お気軽にお寄せください。

※本記事は2024年2月時点の情報で構成しています。