現場の「声」をデータに宿す、水質DXという未知の航路

「はかる・つたえる・みる」が水質管理の未来の扉を拓くとき

2014年、アジアの一部地域で水質管理が課題となる中、「だれでも、どこでも、簡単に」水質を測れる仕組みを届けたい。
そんな想いから「WATER it」は誕生しました。
しかし、現場の声に耳を傾ける中で、企画チームは重要な事実に気づきます。
「お客様が本当に求めているのは、水質計そのものではない」。

プロダクト(モノ)からサービス(コト)へ。

営業や開発など、部門の垣根を越えた議論の先に見えてきたのは、「はかる・つたえる・みる」という、水質管理DXの新しいかたちでした。

目次

水面に手を差し伸べ、水とのつながりを表現したイメージ

WATER itはなぜ生まれたのか。2014年の出発点

2014年。アジアの一部地域では、急速な経済発展に伴い、水質管理が課題となっていました。
工場排水や生活排水、農業排水などによる水質への影響を把握するためには、水質測定が欠かせません。

しかし当時の測定は、専門知識を持つ技術者による手分析や高価な分析装置が中心でした。
そのため、人手や予算が限られた現場では継続的な測定が難しく、水質を把握する体制は十分とはいえませんでした。

「専門知識がなくても、高価な分析装置がなくても、その場で水の状態を把握できる仕組みをつくれないか」

排水による水質汚染と水質管理の重要性を表現したイメージ

そんな問いから、WATER itの開発は始まりました。

そこで企画チームが掲げたのが、「だれでも、どこでも、簡単に」水質を測れる仕組みです。
この発想を支えたのが、「IoS(Internet of Sensing)」という独自のコンセプトでした。
IoSとは、オプテックスが培ってきたセンシング技術とIoT技術を組み合わせ、センサーが取得した情報を価値あるデータとして活用するための考え方です。
センサーが検知した情報を単に計測して終わらせるのではなく、インターネットを介してつなぎ、社会課題の解決に生かしていく。

それは、単なるモノづくりの発想を一歩先へ進める、当時としては挑戦的な取り組みでした。

そしてもう一つ、チームが重視したのが「現場主義」です。
分厚いマニュアルや専門的なトレーニングを必要とせず、スマートフォン1台あれば誰でも使い始められる。
そんな手軽さを設計の起点に据えました。

高い理想を掲げながらも、目線は常に「現場の人が迷わず使えるか」に置かれていました。

2014年の出発点にあったこの姿勢は、その後WATER itが「はかる・つたえる・みる」というビジョンへたどり着くまで、一貫して受け継がれていくことになります。

「はかる」だけでは足りなかった。2019年、企画チームの転換点

新興国向けに開発された「WATER it」は、現場担当者が持ち運んで使用するポータブル型の水質測定器でした。

人がその場へ足を運び、簡単に測定して数値を把握できる。
それがWATER itの原点でした。

ポータブル型WATER it
新興国向けに開発された初期のWATER it。
現場へ持ち運び、その場で水質を測定できることが特長でした。

一方、日本国内への展開を検討する中で、企画チームは新興国とは異なる課題に直面します。

慢性的な人手不足、ベテラン技術者の高齢化、設備の老朽化。
限られた人員で従来どおりの巡回点検を続けること自体が、難しくなりつつありました。

そこで着目したのが、オプテックスが培ってきた連続測定型の水質センサーです。

センサーを常時稼働させ、水質データを遠隔から確認できる仕組みを構築することで、異常の早期発見やトラブルリスクの低減が可能になります。

さらに、日々蓄積されるデータは、これまでベテラン技術者の経験や勘に支えられてきた判断の根拠を可視化し、ノウハウ継承という課題への対応にも役立つものでした。

水処理施設で点検結果を記録する現場担当者のイメージ

それでも、企画チームの中には拭い切れない違和感が残っていました。

「水質は連続して測定できる」
「測定値も問題なく表示、出力できている」

それなのに、「これで十分だ」という手応えが得られなかったのです。

2019年、企画チームは現場へ何度も足を運び、水質管理に携わるお客様の声に耳を傾けました。
そこで突き付けられたのは、自分たちが見落としていた事実でした。

「お客様が求めているのは、水質計ではない。適切な水処理を行い、きれいな水を排出することだ」

測定器を提供する立場にいると、どうしても精度や機能に目が向きがちです。
ところが、現場の担当者が本当に知りたいのは、数値そのものではありません。

その数値が何を意味し、次に何をすればよいのかでした。
データは、あくまでも判断するための手段にすぎない。
企画チームは、ようやくその本質に気づいたのです。

「はかる」ことはできる。
しかし、「はかった先」に現場を支える仕組みがなければ、オプテックスの製品は現場の負担を減らすどころか、新たな「見るべき数字」を増やすだけになってしまう。

この危機感が、企画チームを突き動かしました。

「WATER it」を単なる測定器としてではなく、現場に寄り添い、判断を支えるサービスとして捉え直す。

そのための議論が、2019年、部門の垣根を越えたワークショップという形で本格的に始まることになります。

部門を越えた共創から生まれた「はかる・つたえる・みる」

「はかる」だけでは、現場の課題は解決できない。
その気づきを胸に、企画チームは2019年、営業、開発、広報販促のメンバーを集めたワークショップを立ち上げました。

テーマは、「WATER itデータマネジメントサービス」のコンセプトを定義すること。
そして、「オプテックスらしい価値とは何か」を改めて考えることでした。

それは機能を決める会議ではなく、WATER itの存在意義そのものを問い直す場だったのです。

チームがまず取り組んだのは、水質管理に関わるさまざまな立場のお客様を理解することでした。
製造業、エンジニアリング会社、ビル管理会社、官公庁など、それぞれの視点から課題を整理していくと、立場は違っても共通する悩みが見えてきました。

人手不足、高齢化、管理コストの増加、広域施設の管理負荷、情報活用の不足、異常発見の遅れ。

部門を越えたワークショップでサービスコンセプトを検討する様子

そしてチームは、一つの結論にたどり着きます。

自分たちが提供すべき価値は、「センサーを売ること」ではなく、「水質管理の負担を軽減すること」なのではないか。

さらに議論は、「自分たちは何者なのか」という問いへと広がっていきました。

少人数で力を合わせながら、前例のない製品やサービスに挑戦してきた水質測定事業。

しかし目指すのは、その先にある姿です。

現場の課題に寄り添い、お客様を支え続けること。
そしてテクノロジーの力で、水質管理の新しい未来を切り拓くこと。

その思いを言語化したものが、「Caregiver(ケアギバー)× Magician(マジシャン)」というブランドの理想像でした。

CaregiverとMagicianのブランドアーキタイプを示したワークショップ資料

こうした議論を重ねる中で、WATER itが提供すべき価値を表す言葉として浮かび上がったのが、「はかる・つたえる・みる」です。

「はかる」とは、単に数値を取得することではありません。
現場で継続的に使い続けられる仕組みをつくり、水質管理の負担を軽減することです。

「つたえる」とは、単にデータを送信することではありません。
現場で得られた情報を必要な人へ届け、離れた場所からでも状況を共有できるようにすることです。

そして「みる」とは、単に数値を表示することではありません。
蓄積されたデータから状況の変化を読み取り、次に取るべき行動を判断しやすくすることです。
数値を見せるためではなく、判断を支えるために可視化する。
それが「みる」に込められた考え方でした。

これらは個別の機能ではありません。
現場で起きていることを正しく把握し、関係者に伝え、適切な判断につなげるための一連の価値です。

「はかる・つたえる・みる」は、現場の困りごとと向き合い続けた結果として生まれた、WATER itのビジョンでした。

このワークショップを通じて、オプテックスは一つの答えにたどり着きます。

私たちは、水質データを提供する会社ではない。
お客様が安心して判断できる環境をつくる会社でありたい。

この思想は、その後の「お客様に寄り添い、想いを共有しながら、最適な水質環境と目指す世界を共に創るパートナー」という姿勢へとつながっていくことになります。

「はかる・つたえる・みる」が形になった瞬間

部門の垣根を越えた議論の末に、企画チームがたどり着いた答え。
それは、測定器を提供して終わるのではなく、現場の判断を支え続けることでした。
その思いを言語化したものが、「はかる・つたえる・みる」を軸としたWATER itのビジョンです。

このビジョンは、机上の理念にとどまることなく、実際のサービスとして形になっていきました。

現場で「はかる」。
得られたデータを「つたえる」。
そして、その情報を「みる」ことで状況を把握し、判断につなげる。

ワークショップで見えてきた「現場と管理側が同じ情報を共有し、より適切な判断につなげたい」という思いは、遠隔監視やデータ共有、アラート通知といった機能として実装され、日々の運用を支えています。

このビジョンが目指したのは、ベテラン技術者が長年培ってきた経験や勘を、データという形で共有しやすくすることでした。

もちろん、経験や勘そのものを置き換えることが目的ではありません。
データはあくまでも判断材料であり、最終的な判断や対応を担うのは人です。
これまで属人化しがちだった判断の根拠を見える化することで、経験の浅い担当者でも状況を把握しやすくなる。そんな環境づくりを目指しました。

WATER itデータマネジメントサービスのダッシュボード画面
WATER itデータマネジメントサービスのダッシュボード。
現場で測定した水質データをクラウドで共有し、PCやスマートフォンから状況を確認できます。

サービス導入がもたらした現場の変化

サービスの提供開始後、導入先では業務の進め方そのものに変化が生まれました。
例えば、広範囲に拠点が点在する高速道路のパーキングエリアにおける浄化槽管理では、次のような効果が報告されています。

  • 巡回頻度の削減:遠隔監視の導入により、週3回実施していた巡回点検を週1回へ削減
  • 作業時間の削減:データに基づく効率的な運用により、1人当たりの現地作業時間を約67%削減
  • コミュニケーションの変化:異常発生時だけでなく、平常時も水質の状態を複数の関係者が共有できるようになり、現場と管理部門の間でデータに基づく対話が生まれた

「はかる」「つたえる」「みる」は、それぞれが独立した機能ではありません。
現場で起きていることを正しく把握し、必要な人へ伝え、判断につなげる。
この一連の流れがつながることで、初めて現場の負担軽減につながります。

プロダクトからサービスへと発想を転換したことで、WATER itは人手不足や技術継承といった現場の課題に対する新たな選択肢を提供する存在へと進化していきました。

現場とともに歩み続ける。その先の未来へ

「お客様が求めているのは、水質計ではない」。

2019年、企画チームが現場との対話を通じてたどり着いたこの気づきは、「はかる・つたえる・みる」というビジョンとなり、今もWATER itの根幹に息づいています。

水質管理のDXは、まだ道半ばです。
人手不足や設備の老朽化、技術継承といった現場の課題は、これからも形を変えながら続いていくでしょう。

だからこそオプテックスは、一度描いたビジョンにとどまることなく、これからも現場の声に耳を傾けながら、WATER itを進化させ続けます。

目指すのは、水質センサーを提供する会社ではなく、現場に寄り添い、お客様の判断を支えるパートナーであること。

その歩みの先にあるのは、水を通じて社会を支え、あらゆる生命が安心して暮らせる世界です。

WATER itが目指す持続可能な水環境を表現したイメージ

高速道路パーキングエリアの浄化槽管理における導入事例

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